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今日もいい日

不定期更新な日記だったり定期更新ゲーム『False Island』の日記だったり。 気分次第で更新、今日もいい日。

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Blackwind's Police Blotter 6-10 -The World Moves Today Too -

夕食会は終始和やかに進んだ。
酔っ払わない程度に酒も振舞われ、オーベルがマグドールの結婚話をからかったり、ガートルードとリーンが意気投合してキリアとアンネローゼに叱られたりと笑いの絶えない席だった。
もっとも、さすがにシルバとグリューネワルトだけは会話がなかったが……揉め事は起こさないが、割り切れない部分があるのだろう。
逆に警備隊の総隊長であるヒルデガルドは見事に割り切っている。
冗談めかして『年内に十区の一斉捜査でもしようかな』などと言い出し、シルバはシルバで『ではその前に警備隊の隊舎にこっそり引っ越すとしよう』と応える。
意外なことにテレーズは全員と大なり小なり顔見知りで、シルバでさえ初対面ではないらしい。
そのあたりを聞いてみたが、例の『うふふ』で誤魔化されてしまった。



デザートまで含む全ての料理が終わり、食後のコーヒーが供される。
よく冷えたそれをアルマとシャーリーが注いで回り、俺の砂糖の量を初めて見る者は誰もが目をむいていた。
一頻り座が落ち着いたところで、誰とはなしにオーベルを見やる。
小さな音を立ててカップを置いたオーベルが、円卓の上で手を組む。
「さて、皆さん。本日この場にお集まり頂いたのは、先日の皇都夏祝祭の大成功を祝うためです……私の知る限りにおいて、この場の全員が大きな役割を果たしてくれました」
オーベルを見る者たちの表情はそれぞれだ。既にある程度は事態を把握している者、あるいは何のことか全く分からない者。
「私が何について話しているのか、お分かりでない方もいらっしゃる。はっきりと申しましょう……天覧舞台の後に起こった、あの演舞です。実に見事だった」
そう言って静かに立ち上がると、全員に向かって頭を下げた。
「改めて御礼を申し上げます。まずはマグドール・フォン・ベストパル候」
「おう?」
「皇国歌劇団の後援会長である卿には、随分無理を聞いていただいた。あの日、舞台の裏口に係員のいない空白の時間を作り出せたのは卿の助力あってのことです」
「根回しが実に大変だったぞ。しかも事情は話せないの一点張りだ、苦労させてくれる」
そう言いながらもマグドールは笑っている。口でどう言い合っていても、この二人はやはり友人なのだ。
「続いてはテレーズ・サンドルフ。演舞に出演した者に協力してくださった。身体能力強化の魔術、大したものです」
「光栄ですわ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。じゃあテレーズは、あの時の連中が誰なのか……」
「何人かは知っているわ。でもそれを語るのはマイザー候。すぐに分かるわ」
呆気に取られるガートルード。相変わらず笑みを絶やさないテレーズ。
「ガートルード・ビットフェルトは最後に女の子を助けてくれましたね。あれのおかげで、演舞は実にいい形で終わりました」
「そ、そうですかねえ……?」
突然水を向けられたせいもあって、首を傾げている。
誰かのカップが空になる度に、静かにアルマとシャーリーがコーヒーを注いで行く。アルマの表情は普段とまるで変わりがない。
シャーリーは客の多さに少し緊張しているようだが、立派に仕事をしている。
「さて、次は誰にしましょうか……これは悩みどころですが」
楽しそうに笑うオーベル。これから何が起こるのか、さすがにもう全員が理解している。
全てが明かされるのだ。
「ふふふ。この際、順番どおりにお呼びするのがいいでしょう……まずはバルバロッサ。シスター・リーン・ハルト。続いてブリュンヒルト、シスター・キリア・フリード」
皆の目が二人に集まる。本人たちは表情を変えず、じっと黙ったままだ。
「続いて、クヴァシル……アンネローゼ・ニーダマイヤー。そしてケーニヒス・ティーゲル……シュツルム」
ガートルードが唖然としているのをよそに、オーベルは続けていく。
「スキールニルはそちらのシルバ嬢。実に美しい銀髪でした」
「ありがとう。同じ色の仮面を用意するのが面倒ではあったがな」
鷹揚に頷くシルバ。彼女も彼女で、オーベルを前に何ら臆するところがない。
実に堂々としたものだ。
「さて次はフォンケルですが、この者はあの晩と同じ格好でこの場にいます……アルマ」
壁に控えていたアルマが、名を呼ばれると同時に一歩前に出て優雅に礼をする。スカートの裾をつまんだその礼も、あの晩に登場した時と寸分違わない。
シャーリーは先ほどからの怒涛の展開に目を白黒させているが、まさか自分の先輩まで関わっていたとは思わなかったらしい。
目をぱちくりさせてアルマを見つめている。
「仮面の七人の中で最後に登場したヴィーザルは、グリューネワルト・フォン・ミューズ候。まさか貴女が参戦していたとは思いませんでした」
沈黙したまま目礼するグリューネワルト。何も言い訳することはない、という意思表示か。
「そして、生きながら伝説に名を連ねたヒルデガルド・フォン・マリンディア候」
「そのようにご大層なものではありませんよ。四対三よりは四対四の方が、見応えがあると思っただけです」
「ご謙遜を。実に華麗な槍捌きでしたよ……さすがは『戦神の槍』です」
「では、そちらのメイド殿はさしずめ『武神の槍』と言ったところですか?」
ちらりとアルマを見やる。この二人は演舞で槍を使い、互角に打ち合っていた。
皇国でも随一の槍使いと言われるヒルデガルドとしては、やはり何か思うところがあるのだろう。
「さて、それは本人に聞いてみないことには。アルマ、どうだい?」
「私はメイドでございます。それ以上でも以下でもなく、それ以外のことは旦那様にお預けしております」
「と、いうことです。申し訳ないがアルマを警備隊に引き抜くのは諦めていただきましょう」
肩をすくめてみせるヒルデガルド。そして、流れが一つ落ち着いたこの時を待っていたように、キリアが口を開いた。
「確かに、リーンと私がバルバロッサとブリュンヒルトであることに相違はございません」
「だけど、これだけは信じてほしいんだ。あの予告状を出したのはあたしたちじゃないぜ」
「予告状……ああ、例の高札ですね。知っていますよ、何しろあれを出したのは私ですから」
キリア、リーン、マグドール、ガートルード、シャーリーが驚愕の表情に変わる。
テレーズ、ヒルデガルド、グリューネワルト、シルバはどこか納得したようにため息をつき、アルマはやはり何の変化も見せない。
俺とアンネローゼは特に何を言うこともなくコーヒーを飲んでいる。
「種を明かせば、大元はそこで我関せずといった風なシュツルムです。夏祝祭初日の二日前に、突然彼から提案がありました」
「お、お前……とんでもないことしてくれたぜ……」
リーンがぎりぎりと歯噛みしながら俺を睨む。うむ、なかなか鬼気迫るものがある。
「あれのおかげで、あたしたちが出ないわけに行かなくなったんだぜ!」
「そうだろう。出ざるを得なくするために出したのだからな」
「何だってそんなこと……」
「祭りを面白くするためだ。あれだけ派手に予告を出せば、かなりの確率で『赤髭』と『白姫』を誘い出せると踏んだ。数万の都民の前で噂の怪盗と試合うという企画だ」
あっさりと乗ってきたオーベルもどうかとは思うが、それは言わずにおく。
「そういうわけですから、高札の件については気にしないでください。それからマリンディア候、ミューズ候。今判明した『赤髭』と『白姫』の正体については口外無用ですよ?」
「実に困ったお人ですね。警備隊の総隊長と副長にその任を忘れろと仰る」
「承服しかねますが、いずれ正規の手段で捕らえれば済むこと」
これで二人が突然に逮捕されるということはなくなった。
この夕食会が始まる前にオーベルが言った『いかなる禍根も起こさず、また残さず』とは警備隊の長二人とシルバに対してだけではなく、これのためでもあったのだ。
「オーベルの同意を受けて、次に巻き込んだのがアンネローゼだ。先ほどヒルデガルドも言ったように、二対一よりは二対二の方が面白い」
「殆ど事後承諾でしたが。その時に事情をお話くだされば良かったものを、高札が出てからとは」
「あれ?もしかして宮殿で私と会った時かな。確かマイザー候に会うって言ってたね」
「まさにその後だ」
「あら、アンネローゼはまだ良い方よ。私は中日だったわ」
三日間の夏祝祭の中日、つまり決行の前日だ。テレーズへの連絡がぎりぎりになってしまったのは、オーベルを通じてマグドールに頼んだ野外劇場への侵入経路がはっきり決まっていなかったためである。
アンネローゼはともかく、これが決まらない限り俺の待機場所も決められず、テレーズと落ち合う場所もはっきりと決めることができない。
「しかし、私とリーンが犯人であると何故分かったのです?」
「まず、二人は常にシスターの服装の一つとして帽子を被っている。獣化していてもこれで隠すことができる」
「何言ってんだよ、警備隊だって兜のやつはいっぱいいるぜ」
「そのとおりだ。だがパーツィバル孤児院の診察室の上。外からは分からないが、あの部屋と二階の間に中二階のような場所があるな?」
二人とも何も言わない。どうやら当たりのようだ。
「獣化解除促進の魔法陣は直径五メートル。さらにどういうわけか、厚さが一メートル以上の木材に描かなければいけないそうだな……以前ウィルを運び込んだ時、やけに天井が低いのが気になった」
「……私たちの教会も古いものですから、あまり派手な改装工事はできないのです。外から見てもおかしくないようにするには、ああするしかありませんでした」
「それから気になったのが、初日に会った時の二人だ。高札の件で少し話したと思うが、あたかも『赤髭』と『白姫』を知っているかのような口ぶりだった」
「だけど、それだけじゃ理由にならないぜ。あたしたちが二人を知ってても、あたしたちが本物とは限らない」
「そのとおりだ。だからテレーズに頼んで、孤児院に網を張ってもらった」
あらかじめ設置した、術者の意思を込めたある程度の大きさを持つ物体を中心に半径二十メートル圏内に作用し、範囲内で何らかの魔術を発動させればそれを感知するという待機型の魔術。
制約は設置した物体の形状、及び場所が変化すれば効力を失うという点。また、それらに問題が無かったとしても数時間でやはり効力は消え、一度この魔術の始点として使った物体には二度と作用しなくなる。
魔術であれば何にでも反応してしまい、加えてどんな魔術が使われたかまでが分かるわけではない。実用性があるようでない、微妙な魔術だ。
「昨日の明け方近くに孤児院に向かってもらったのだが、意外とすぐに反応があったそうだ。さらに近くの住民の話によれば、昨日は二人ともまったく外出をしていない。魔法陣から離れれば意味がないからだ」
「……けどよ、あたしたちが『違う』って言い張ってたらどうするつもりだったんだよ?」
「動かぬ証拠というやつを見せてもらうだけだ。今日は珍しく袖を下ろしているな?」
ビクッとしたリーンが両腕を押さえた。
「俺と一番派手に組み合ったのがリーンだ。打撲傷程度なら転んだと誤魔化しも利くだろうが、その両腕に俺が掴んだ痕が残っているだろう?」
「……まったく、とんでもねえ馬鹿力だぜ。オトメのヤワハダにこんな痕つけやがって」
そう言って少し袖をまくったリーンの手首には、しっかりと手の痕が残っている。
まさしく動かぬ証拠、というやつだ。

「ふむ。少しいいかシュツルム」
「何だ?」
突然話しかけてきたのはシルバだった。
「君が私に依頼したのは『獣化解除を促進する魔術の痕跡を辿る方法を、極秘裏に魔術研究院が編み出したという情報』。これを、皇都内の獣人の情報網に流してほしい」
「そのとおりだ」
「私はこれを偽の情報と捉えていた。君の目的が『赤髭』と『白姫』を誘い出すことにあると聞いたからな……しかし、君は私まで担いだわけか?」
「そう怒るな。確かに全てを話してはいないが、嘘も言ってはいない。獣化解除促進の魔術だけを辿る方法は今もって皆無だ」
「ふう……まったく、君という男は。少なくとも私の名を知っている者なら、何を間違えても私を担ごうなどとは考えないぞ」
物憂げにため息をつくシルバ。黙ってちょこんと座っていれば良家の令嬢といっても通用しそうだが、彼女は暗黒街の顔役どころかその頭領たる人物だ。
その彼女をも巻き込むという発想は、あまり一般的ではないらしい。
「その情報が偽物であると分かったから、私たちも安心して魔術を使えたのに……」
「まんまと一杯食わされたぜ。まさか大元から嘘だったなんてな」
「まあ、今回は久し振りにいい運動もできたことだし何より面白かった。私を担いだ点に関しては不問としよう……ただし、約束は守ってもらうぞ?」
「シュツルム殿、約束とは?」
耳聡くアンネローゼが問うてくる。いささか目に険がある……つまらん誤解を受けたくはない。
「うむ、それはな」
「一晩私に付き合ってもらうことだ。無論、私の寝室でな?」
妙に色気のある流し目と凍りつくような鋭い視線に挟まれてしまった。
ふと見れば、マグドールとオーベルは聞こえなかった振りでコーヒーを飲んでいるし、テレーズとヒルデガルドは口を押さえて笑いを堪えている。
キリアとリーン、ガートルードは顔を真赤にしており、グリューネワルトはこれまたアンネローゼに比肩し得るほどの鋭い目つき。
どう考えても俺が被害者のはずなのだが。
「ええと……どういうことでしょう?」
「シャーリー、貴女にはまだ早い。お忘れなさい」
初めてアルマが『いい先輩』をやっているところを見た気がする。
「シルバ、冗談も時と場合を考えてくれ。俺がこの家を追い出されてしまう」
「なあに、それはそれで好都合だ。私の家は部屋が余っているからな……口うるさい堅物女もおらんぞ」
ピシリ、と空気に亀裂が入る音が聞こえたような気がした。
「模造剣ではなく、真剣での立ち合いが望みのようですね」
「ほう、いいのか?今夜は『姉』は助けてくれんぞ」
グリューネワルトの視線が俺からシルバに移る。丸い眼鏡の奥から、何かを見透かそうとするようにじっと見ている。
それはさておき、これ以上放っておくと本当に二人が立ち合いかねない。
「アンネローゼ。俺の約束は、いずれシルバが何か困った時に手を貸すというだけだ。何もやましいことはない」
「……」
少し、空気が緩やかになった。
まだ剣呑な顔をしているが、とりあえずは引き下がってくれたらしい。
「シルバもあまり煽るな」
「分かった分かった。まあ、私だってこんなところで耳を出す気はないさ」
「……あら?シルバさんも獣人……だったのですか?」
顔を赤くしていたキリアがシルバの言葉に反応した。
「ああ。知っている者は殆どいないが、私もれっきとした獣人だ。耳を出したのは久し振りだったがな」
「誰が獣人かなど、そうそう分かるものではありませんわ。獣人同士であっても何かを感じ取れるわけではありませんし」
「すごいなー。あたし、三人も一度に会ったの初めてだよ……でもリーン、別に獣人だからってあたしたちとなんにも違わないんだろ?」
ガートルードがいつになく真剣な表情で尋ねる。リーンは一瞬きょとんとしていたが、すぐに答えた。
「違わないぜ。腹が減りゃメシ食うし、眠くなりゃ寝る。楽しけりゃ笑うし、悲しけりゃ泣く。殴られりゃ痛いし、血だって赤いぜ」
「そっか。うん、安心したよ」
「安心って……何が?」
「んー、うまく言えないんだけど」
言葉を探すように視線を少し飛ばしてから、ガートルードは話し始めた。
「あたしは、知識としては獣人のこと知ってたよ。見たこともあった。でも、ちゃんと話したことはなかったんだ。今日リーンたちに会って、話をして、みんなおんなじだってことが分かった」
「うん」
「おんなじなら、きっと友達になりやすいなって。それで安心したんだ」
しばらくの間、誰も何も言わなかった。ガートルードの言ったことは、決して軽くはない。
いかに外見や生活様式が似ていても、例えば犬と狼は異種族だ。
どんな種族であっても本能的に持っている、目に見えぬ高く厚いその壁を、ガートルードは軽々と越えてみせた。
しかも彼女は『友達になりやすい』と言った。
恐らく、外見から全く違う種族であっても友達になろうとするだろう。
「……デーツの法律は、確かに獣人の権利を保障してくれてる。けど、人の心はそんな簡単じゃない……あたしもキリアも、嫌な思い何回もしたぜ」
「ミュラー院長に……あの頃は副院長でしたが、彼に保護していただくまで私たちは二人きりで生きてきました。人の嫌な部分を見て……」
「私とてそれは同じだ。この二十年ほどで大分良くはなったが、獣人を蔑視する者がいなくなったわけではない」
「だから、さ」
リーンが、少し赤くなった目元を拭った。
「だからさ、ガートルード。あんたが今言ってくれたことは、すごく……本当に、すごく嬉しいぜ」
「や、やめてくれよ。そんな改まって言われると照れるって……」
わたわたと手を振っている。
真っ直ぐに物を言う者ほど、真っ直ぐ言われると弱いのだ。

頭をかいていたマグドールが、ふと思い出したようにキリアとリーンに言った。
「ところでお二方、伺いたい事があるのだがな」
「何でしょう?」
「その、お二方はどうして皇都を騒がす怪盗になったのだ?」
「別に金が欲しいわけじゃないぜ。あたしたちが盗んだ金目の物は全部寄付しちゃってるし」
「無論知っている。だからこそ分からんのだ……無為に騒ぎを起こしたいだけとは思えん」
「チビどもにはさ、英雄が必要なんだよ。憧れて尊敬する対象がなきゃいけない。そのために、義賊ってのは都合がいい」
「人を傷つけず、悪人からしか盗まない。警備隊にも捕まらない。なるほど、確かに子供たちが憧れる設定だね」
「人は希望を持って生きるべきです。ですが、子供たちの事情は様々です。中には希望を持てない子もいます……だから、私たちが彼らの希望にならなければいけないのです」
「……今後、模倣犯が現れる可能性もあるだろう。そしてその連中までが人を傷つけないとは限らない」
沈黙を守っていたグリューネワルトが、カップに目を落としたまま言った。
「それは……」
「だが、そのような輩は決して許さない。我々皇都警備隊が守るのは都民の安全な暮らしだけではない……小さな希望も、守らねばならない」
事実上の和解と言える一言だった。
無論、警備隊として捜査の手を緩めることはないだろう。それでも、その中で、二人が守ろうとしている物を守ると言っているのだ。
「……ありがとう、ございます」
キリアが深く頭を下げる。
ブリュンヒルトは目礼で返し、黙ってコーヒーに口をつけた。
「……あー、その……実はもう一つ疑問があってな」
「何だい。この際だ、大抵のことは答えてやるぜ」
「恐らく私以外の皆も知りたい事だと思うのだが。どうしてバルバロッサとブリュンヒルトを名乗ったのか?」
確かに、それは俺も気になっていた。
『柊宮伝説』自体を調べ直してはみたものの、やはり手がかりになりそうな事は見つからなかったのだ。
「んー、そう来たか。こいつはそうそう喋っていいことじゃねえんだけど……」
「何、構わんだろう。この場の一同、秘密を売って口に糊する者たちではない」
どういうわけか、口添えをしたのはシルバだった。
「……ま、そうだな。じゃあ教えてやるけど、意外と簡単だぜ?」
こほん、と似合わない咳払いをして、リーンがついに核心を語る。
「バルバロッサとブリュンヒルトってのはさ。最初の獣人なんだよ」

意外に簡単。意外すぎるほど単純。何も難しいことはなかった。
ほんの少し頭をひねれば届きそうな結論。
逆に考えれば考えるほど、この答えからは遠ざかってしまうだろう。
「『柊宮伝説』自体はこの大陸の話だけど、バルバロッサとブリュンヒルトは海を越えてきたんだ。西のヴェスタラントの向こう、海をずっと越えていったところに獣人の国があるって話だぜ」
「だから伝説に出てくる二人は既に成人しているのです。幼少期の話はありません」
「うーむ……そう言われてみれば確かに。生まれてから成長する部分の話はありませんでしたねえ」
オーベルがうんうんと頷いている。
「二人が見つけた柊宮というのは、この国を指している。ほれ、ヴェスタラントとの国境地帯は柊が群生しておるだろう?」
「なるほど、自分たちの祖先を名乗ったのか」
「ああ。獣人に産まれて嫌なことは確かにあったけど、獣人に産まれた誇りってのもある。だからご先祖様の名前借りたんだぜ」
「まさか、他の登場人物に出くわすとは思いませんでしたけど……アンネローゼさんのクヴァシルが現れた時は、本当にどうしようかと思いました」
「正直に言えば私も困りました。シュツルム殿からは『祭りを面白くするだけでいい、倒す必要はない』と言われましたが、手加減などしている余裕はありませんでしたから」
「そういえばシュツルム、君に蹴られた左腕がまだ痛むな」
「お前さんは登場した時、本気で俺を刺しに来ていなかったか?」
「一番殴られたのはあたしだぜ?体格差ってもんを考えてほしいぜ」
「そういえばよく投げ飛ばされてたねえ。まるでお手玉だったよ」
口々にあの晩のことを語り出す一同。
実際に立ち合った俺たち八人だけではなく、観客であったオーベルやテレーズも話の輪に加わっている。
闘っていた俺たちには分からない外からの話というのも興味深く、あの時は危なかっただのこの時は連携が決まっただのと、話題は後から後から出てきた。

尽きぬかに思えた話も、いつかは終わりが訪れる。
夜も更け、皆が静かになった頃、オーベルが柔らかく手を打った。
「さて、皆さん。実に有意義な楽しい一時でした。名残惜しくはありますが、時間も時間。そろそろお開きといたしましょう」
その一声を潮に、めいめいが席を立つ。来た時のようにばらばらではなく、全員が一緒に移動する。
客たちがオーベルに礼を述べ、別れの挨拶を交し合う。玄関口に一時の喧騒が訪れる。。
「今度、孤児院に遊びに来いよ。きっとチビどもも喜ぶぜ」
「ああ、必ず行くよ」
リーンはキリアと、ガートルードはテレーズと一緒の馬車だ。
「シュツルム。私から用がある時は使いを出す」
「話は先日の部屋で聞く。寝室には入らんぞ」
カラカラと笑って、シルバは馬に跨るが早いか走り出していった。
「マリンディア卿の邸宅はうちの近くだったな。お送りしよう」
「よろしいのですか?細君がお怒りになるかもしれませんよ」
「送らなかったと知れれば口を利いてくれなくなるのでな」
マグドールとヒルデガルドも馬車に乗り込んで去っていく。
「シュツルム殿。貴殿と少し話がしたい」
最後に残ったグリューネワルトから意外な申し出があった。
オーベルたちに目で合図すると、俺の意を汲んで皆が屋敷に引っ込んでいった。
「人払いはできた。話というのを聞こう」
「ニーダマイヤーのことだ。私が言えた義理ではないが、あれをよく見てやってほしい……貴殿には大分心を開いているようだ」
「ふむ……何ができるかは分からんが、アンネローゼはまだ若い。成長する余地は幾らでもある。その手助けはしよう」
「……それでも構わない。宜しくお願いする」
そう言って踵を返すグリューネワルト。しかし、俺は彼女を呼び止めた。
確かめたいことがあったからだ。
「ミューズ候。ヴィーザルは、クヴァシルの姉だったな」
「……それが、どうかしたか?」
「髪の色が似ているだけなら、間々ある話だ。しかし卿のため息のつき方は、アンネローゼのそれと全く同じだ……そして卿は、どういうわけか随分とアンネローゼを気にかけている。これは偶然か?」
グリューネワルトは俺に背を向けたまま黙っている。
俺も何も言わず、返ってこないかもしれない答えをじっと待っていた。

「……ニーダマイヤー家の現当主と私の父である先代ミューズ家当主は、若い頃共に学んだ友人だったそうだ」
唐突に始まった話は、現在のではなく過去の物語。本来なら、語られることのないはずの。
「ミューズ家には子供がいなかった。私が八才の時に彼女が産まれ、両家の当主の話し合いで私はミューズ家の跡取りとして養子に出された……」
「アンネローゼはそのことを?」
「知らない。六年前に公文書館が火事に遭い、私の養子縁組の書類も焼失してしまった。記録から辿ることはできなくなったし、私と彼女の関係など誰も気にはしない」
「誰かに話を訊かれることもないというわけか」
「そうだ。自分に姉がいるなど、夢にも思わないだろう……私も、言うつもりはない」
「それでいいのか」
「彼女が産まれてすぐに養子に出されたせいもあるが、私は何一つ姉らしいことなどしてやれなかった。思い出の一つもないのに、今更教えたところで混乱させるだけだ」
「演舞の場に現れたのは何故だ?」
「サンドルフから密かに連絡をもらっていた。貴殿がシルバを動かしたことで、『赤髭』と『白姫』に加えて恐らくシルバも出てくるだろうから助っ人が必要だ、と」
「テレーズは二人の関係を知っているのか」
「いや、そこまでは知らない。特務部隊をヒルデガルドに預ければ私が個人で動けると見越して、私に話を持ってきたのだ」
背筋を伸ばしたまま、速い歩調で馬に向かって歩いていく。
これ以上この話を続けるつもりはないのだろう――だが、これだけは伝えておかなければいけない。
「自らが法の護り手であることに誇りと強い責任感を持っている。それだけ何かを信じられる強さに憧れている」
「……何だ、それは?」
「アンネローゼが言っていたことだ。卿の強い心を目標としていると」
手綱を取ったまま、グリューネワルトは動かない。
「名乗り出る、出ないは俺がどうこう言うことではない。だが、思い出だけが絆ではないということは覚えていてくれ」
「…………礼を言う。あの子を……」
その声と肩が、僅かにだが震えていた。
「アンネローゼを、見ていてやってくれ……」
飛び乗るように馬に跨ると、そのまま一気に走り去る。
アンネローゼと同じ青い髪が夜の闇に溶けて消えるまで、俺はその場に立ち尽くしていた。

数日後、俺とアンネローゼはよく陽の当たる小高い丘に来ていた。
そこには既に先客がおり、白い墓石には花が供えられている。
「こないだの夏祝祭のこと、話してたんだ」
墓石の前に屈んでいたガートルードが腰を上げ、こちらに向き直った。
「アードベルトも、きっと喜んでいるでしょう」
「そうだといいな……あれ、テレーズは?」
「少し寄り道をしてくるそうだ。すぐに追いつくと言っていたが……」
その時、俺たちのやってきた方向から蹄が大地を蹴る音が聞こえてきた。
首を向けると、予想通り乗り手はテレーズだ。
珍しく息を切らせている。
「……ごめんなさい、遅くなってしまったわ」
「いやあ、別に遅れてないよ。どこ行ってたのさ?」
「うふふ。警備隊の本隊舎よ」
「へ?」
「そのような所に、どうしてテレーズが?」
「ミューズ候にご連絡をいただいたのだけど、公示が出ていたわ。『四番隊隊士、ガートルード・ビットフェルト。夏祝祭において少女の命を救った功により、四番隊副隊長に任ずる』ですって」
「………………え、えええ?」
「おめでとう、ガートルード」
「おめでとうございます」
「良かったな。アードベルトも、祝ってくれているだろう」
目を白黒させているガートルード。
にこにこと笑っているテレーズ。
柔らかく微笑むアンネローゼ。

強い一陣の風が吹き、周囲の草が宙に舞う。
デーツ皇国の短い夏が始まった。

テーマ:栗鼠ゲーム - ジャンル:オンラインゲーム

  1. 2008/09/13(土) 20:32:21|
  2. 偽島の裏
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